雑な仕事は、やらない。
人間、体を動かしていなくちゃ、
だめだよね。

茶箱が作られはじめたのは、大正時代。
当初、中は紙貼りだったという。
現在は、茶葉の保管に適した紙袋が開発され、
その袋に詰めた茶を、ダンボールに入れて流通させているのが大多数。
時代の趨勢によって、茶箱を作る会社も、
土屋製函所を含め、静岡県内にわずか4、5社に減少した。


今やってるのは、皆、私と同世代。若い人はいないです。
何しろ、手のかかる仕事なんでね。
材料を入れたら、全部組み上がって出てくるならいいけど、

鈴子さんが使う、ハンダの棒。
その他の仕事道具もすべて、使い込まれて手に馴染んでいる。

何もかも、手でやらないといけないもんで。
経験のある職人でないと、仕事にならないし、
商売としては大変ですよ」


しかし、注文が途切れることはない。
かつて一般の家庭の押入れに保存箱として用いられたのは、
本来の用途である茶の流通を終えたのち、小売店から家庭に譲られたもの。
その縁で現在も、小売店や問屋経由で茶箱の注文を受けることがあるという。


「用途はけっこう広いですよ。うちでも使ってます。
おもに衣類や書類を入れたり。あと、食材やなんかも。
湿気を嫌う米とか海苔とかには、とくにいいでしょうね」

板の表面を削る自動プレナ(電動カンナ盤)。
かなりの年代物だが、中に入れると、一瞬の轟音ののち、表面が滑らかになった板が現れる。

電動工具の使用は最小限。人手も最小限。
刃物は、今も自分の手で研ぐ。


「若い人はなかなかやりたがらないけど、
それが、昔の姿だよね」 


現在は、土屋さんと妻、妻の妹夫婦の4人で、
サイズ違いの茶箱を製造している。
誠実な仕事ぶりに注文が相次ぎ、
「土曜日が休めなくなっちゃった」と土屋さんは苦笑い。
いつまで続けられるか、と言いながら、
その背はしゃんと伸びている。


「結局は、仕事があるからだよ。
ある程度は体を動かしていないと、こっち(頭)がおかしくなっちゃう。
人間、何かしてなくちゃ、だめだよね」


表情は、茶箱の佇まい同様、清々しい。
生業があるということ。その確かさ。

完成し、出荷を待つ箱。
板の継ぎ具合、節の目張りなど、同じように見えて、ひとつひとつに個性がある。

繁忙期は、現在も、やはり茶が生産、出荷される4月末から6月。
取材時は、ちょうどその入り口に当たっていた。
ふと、工場の奥の窓の外から、青々しい香りが流れ込んでくるのに気づく。
新茶の香りだ。


「あっちに製造所があるからね。
こっち(入り口)からは、焙じ茶の匂いがするでしょ。ほら」


鈴子さんに呼ばれて行くと、確かに、香ばしい匂いがふんわりと漂っていた。
その前を、学校帰りの子どもたちが通り過ぎていく。
何十年も変わることのない、茶町の初夏の風景。
茶箱同様、この先も、長く受け継がれていくことを祈りたい。


平成29年5月 撮影・取材

土屋製函所

静岡県藤枝市/茶箱製造
静岡県藤枝市/茶箱製造 茶箱は、茶葉が入るキログラム数で表示される。東屋で扱う茶箱は、5kg・10kg・20kg・40kg。それぞれのサイズに高さが約半分の「平」タイプがあり、全部で8型が揃う。

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